司法書士は相続税の専門家ではありませんので、
相続税の個別具体的な相談については税理士法に抵触するためすることはできません。
しかし、
だからといって、お客様に相続税のことを聞かれたら、
「それは専門外なので税理士さんに聞いてください。」
と何も答えなかったらどうでしょう?
相続手続きには相続税が密接に絡んできますから、
あまりにも無責任ですよね。
ですから、一般的な相続税に関する質問には即座に答えられるように、
司法書士はしっかり勉強する必要はあります。
私も相続税については日々勉強中です。
ところで司法書士は、不動産の相続登記をはじめ様々な相続手続きに関与しますが、
そもそも相続税に関する知識を身につけておかないと、適切なアドバイスができない場合があります。
代表的な例として「相続放棄」があげられます。
相続放棄をした場合に、「民法上の相続」と「相続税」のそれぞれの扱いが大きく異なるからです。
それではどのような違いがあるのか見ていきましょう。
「相続放棄」に関し、民法では、次のように定めております。
民法第939条 相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす。 |
一方で、相続税を算出するための課税価格から差し引くことが出来る基礎控除の額については、次のように定めております。
基礎控除額(3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数) |
さてここで疑問が生じませんでしょうか?
「基礎控除額を計算する際の法定相続人の数に相続放棄をした人を含めていいのか?」
という疑問です。
民法上、「相続放棄者」ははじめから相続人でなかったことになりますので、法定相続人の数には含まれません。しかし、基礎控除額を算出する上での法定相続人の数には、なんと、「相続放棄者」が含まれるのです。相続人が取得する際の生命保険金や死亡退職金の非課税限度額の算出における法定相続人の数にも「相続放棄者」は含まれます。なおこの場合に、相続放棄者自身が生命保険金や死亡退職金を取得する場合は、非課税枠を適用することはできません。
生命保険金や死亡退職金の非課税限度額の算出における計算式
非課税限度額(500万円 × 法定相続人の数) |
相続放棄に関しては、「民法上の相続」と「相続税」のそれぞれ扱いが異なる場合がこの他にもあります。
生命保険(死亡保険金)や死亡退職金については、民法上、相続財産に含まれない場合があります。具体的には、死亡保険金の受取人が特定の相続人になっている場合は、相続財産に含まれず、相続放棄者が受取人となっている場合は取得することができます。死亡退職金については、公務員の場合や、公務員でない場合であっても退職金規定に従い受取人固有の権利と認められる場合は、相続財産に含まれず、相続放棄をした者であっても取得することができます。
一方で相続税においては、生命保険(死亡保険金)、死亡退職金、どちらもみなし相続財産として、当然に相続税の課税の対象となっています。生命保険(死亡保険金)や死亡退職金は、民法上では相続財産に含まれないことがあるのに、相続税では相続財産に含まれるということです。
このように、民法上の相続と相続税では相続放棄に対する扱いが大きく異なることがありますから、違いについてしっかり理解しておきましょう。