成年後見開始の申立てをする

父親が亡くなって、相続人が母親(認知症の高齢者)と成人した子供二人の合計三人であり、父親の相続手続きとして遺産を分けたいとします。

通常、故人の遺産を分けるためには、相続人全員でどのように分けるか話し合いをします。これを遺産分割協議と呼びます。

今回のケースも相続人である母親と子供二人の合計三人が遺産分割協議に参加しなければなりませんが、母親は認知症のために遺産分割協議に参加し判断していくための能力が不足しておりので遺産分割協議を成立させることはできません。

したがって、遺産分割協議を成立させるためには、母親の住所地を管轄する家庭裁判所に成年後見開始の申立てをして、母親の利益保護のための代理人の選任をする必要があります。この代理人のことを成年後見人と呼びます。

成年後見人は誰がなるの?

遺産分割協議をするための代理人として成年後見人を選んだ場合でも、一旦成年後見人が選ばれたら、その先もずっと基本的には母親が亡くなるまでその職務は続きます。つまりそれまで成年後見人は母親の財産の全てを管理することになります。

そうであるならば、成年後見人には親族の方がなりたいと思うことが通常でしょう。

そこで成年後見人の申立てをするにあたって、成年後見人の候補者を誰にするか希望を出すことができます。この候補者を親族とすることができます。

しかし、あくまで誰を後見人にするべきかは裁判所が判断することになります。

今回のように、申立てのきっかけが遺産分割協議のような場合には親族が選ばれる可能性は低くなります。裁判所の基準として、次のいずれかの場合には、候補者以外から成年後見人を選ぶ、または成年後見監督人をつける可能性があるとしているからです。

(1) 親族間に意見の対立がある場合
(2) 流動資産の額や種類が多い場合
(3) 不動産の売買や生命保険金の受領など,申立ての動機となった課題が重大な法律行為である場合
(4) 遺産分割協議など後見人等と本人との間で利益相反する行為について後見監督人等に本人の代理をしてもらう必要がある場合
(5) 後見人等候補者と本人との間に高額な貸借や立替金があり,その清算について本人の利益を特に保護する必要がある場合
(6) 従前,本人との関係が疎遠であった場合
(7) 賃料収入など,年によっては大きな変動が予想される財産を保有するため,定期的な収入状況を確認する必要がある場合
(8) 後見人等候補者と本人との生活費等が十分に分離されていない場合
(9) 申立時に提出された財産目録や収支状況報告書の記載が十分でないなどから,今後の後見人等としての適正な事務遂行が難しいと思われる場合
(10) 後見人等候補者が後見事務に自信がなかったり,相談できる者を希望したりした場合
(11) 後見人等候補者が自己もしくは自己の親族のために本人の財産を利用(担保提供を含む。)し,または利用する予定がある場合
(12) 後見人等候補者が,本人の財産の運用(投資)を目的として申し立てている場合
(13) 後見人等候補者が健康上の問題や多忙などで適正な後見等の事務を行えない,または行うことが難しい場合
(14) 本人について,訴訟・調停・債務整理等の法的手続を予定している場合
(15) 本人の財産状況が不明確であり,専門職による調査を要する場合

裁判所が選ぶ成年後見人は候補者以外の方(弁護士,司法書士,社会福祉士等の専門職や法律または福祉に関する法人など)となります。

希望の候補者である親族が選ばれなかったから、やっぱり成年後見申立てはやめるとはできないので注意しましょう。誰が選ばれたとしても文句はいえないです。この点が成年後見制度を利用しずらくしている要因となります。

遺産分割協議に成年後見人が参加します。

無事成年後見人が選任されましたら、母親の代理人として成年後見人、子供二人の合計三人で遺産分割協議をします。遺産分割協議の内容で注意しなければならないのが、母親の利益保護の為に原則として、母親の法定相続分を確保しなければならないということです。今回のケースでは遺産の2分の1を母親の取り分として確保するという意味です。

もし成年後見人に親族である相続人の子供が選ばれた場合は、遺産分割協議に成年後見人として参加することはできません。子供は相続人として参加する必要がありますので、母親の成年後見人としての立場で参加すると、母親の利益を保護できない可能性があるからです。

一人ニ役はできません。

この場合は、家庭裁判所に特別代理人選任の申立てをする必要があります。

但し、成年後見監督人がいる選任されている場合には、この特別代理人に当該成年後見監督人がなれますから、家庭裁判所に特別代理人選任の申立てをする必要はありません。