国際化がすすんでいる現代において、相続人の一人が海外に居住していることはめずらしいことではありません。相続人のなかに海外在住の方がいた場合は、どのような手続きをしなければならないのか見ていきましょう。

まず何より問題となる点は、海外に居住し日本に住所がない場合は、「住民票」や「印鑑証明書」を取得することができないことです。銀行や不動産の相続手続きにおいては、住民票や印鑑証明書が原則必要となりますので、住民票の代わりとして「在留証明書」印鑑証明書の代わりとして「サイン証明書」、これらの書類を海外現地にある在外公館(日本大使館、日本総領事館)で取得する必要があることを覚えておきましょう。

 

相続人のなかに海外在住の者がいるが日本に居住している相続人が代表となって相続手続きををすすめていくことができるのであれば、「在留証明書」や「サイン証明書」を取得する負担を除いては、それほど大きな負担にならないかもしれません。「在留証明書」及び「サイン証明書」を取得することができれば、あとは、必要となる書類(遺産分割協議書など)に署名するだけです。海外在住の方が日本の口座を所有していなくとも銀行の相続手続きにおける払い戻し口座は一旦代表相続人にしておけば問題ありません。

 

しかし、相続人の全員が海外に居住している、あるいは代表となる相続人が海外に居住している場合はどうでしょうか?

それではつぎは、海外在住の相続人が代表として相続手続きをしなければならない場合を見ていきましょう。

まずは、日本に帰国する前に相続手続き全体像を確認すべきです。

書類として何がいるのか?どれぐらいの期間かかるのか?確認しましょう。

 

日本の口座をお持ちの場合は、相続人名義の日本の銀行の通帳を持ってくることをオススメします。各種相続手続きにおいて、相続人名義の口座であることの証明として、通帳のコピーが必要になるケースが多いからです。「帰国してから再発行してもらえばいいや。」と思われている方は注意です。海外に住所を異動させた場合には、通帳の再発行はできない場合が多いです。そもそも海外に住所を異動した場合には、口座の所有を認めていない銀行もありますから、再発行を依頼したら最悪口座を解約することになってしまうかもしれません。

相続手続きの中で、葬祭費または埋葬料の受給手続きはすぐにできますので申請しておきましょう。振込先として日本の口座が必要となります。

 

故人の年金受給の停止もすぐにしておきましょう。

受給を停止したあとで、被相続人に経済的な援助をしており生計が同一関係であったことを証明できれば(第3者の証明が必要)、海外に居住していた場合でも、年金未支給請求をすることができます。振込先として日本の口座(ゆうちょ銀行を除く)または海外の口座が必要となります。原則海外の口座への振込が可能ですが、ゆうちょ銀行への振込は不可です。必要書類として通帳のコピー、またはキャッシュカードや金融機関が発行する書類のコピー(金融機関名、支店名、口座番号、口座名義人のフリガナが確認できるもの)が必要となります。金融機関から口座の証明を受けた場合にはこれらの書類は不要です。また相続人の住所を証明する書類として、「在留証明書」も必要となります。

 

預貯金や有価証券の相続手続きについては、銀行などに被相続人が亡くなったことを告げてから、相続手続きの書類一式は郵送される場合が多いので、郵送先として代理人をたてておく必要があります。先ほど述べてように、「在留証明書」や「サイン証明書」も必要となります。何枚必要になるのか事前に確認しておきたいところです。

 

日本の相続手続きが一旦落ち着き、海外現地に戻ったら、海外現地にある在外公館(日本大使館、日本総領事館)に「在留証明書」や「サイン証明書」を取得しにいきます。ただ、在外公館(日本大使館、日本総領事館)は海外の主要都市にしかありません。そのため海外のお住まいの場所から在外公館(日本大使館、日本総領事館)まで遠く離れている場合が多く、これが相続人の大きな負担となるケースがあります。極力負担を減らすためには、行くのは一度きりにしたいものです。「在留証明書」や「サイン証明書」がそれぞれ何枚必要なのか?しっかり確認するようにしましょう。特に不動産の相続手続きがある場合は注意です。サイン証明書には2種類の様式があるのですが、不動産の遺産分割協議を証明するためには遺産分協議書の原本を持参して担当官の前で実際に署名しなければならないからです。すなわち在外公館(日本大使館、日本総領事館)に行くまでに遺産分割協議をまとめておく必要があるわけです。銀行の相続手続きにおいては、サイン証明書の形態は原本に綴るタイプではなくサイン証明書自体を単体として証明するもので大丈夫なケースが多いです。

法定相続情報一覧図を取得する際には、 申出⼈(相続⼈の代表となって,⼿続を進める⽅)の⽒名・住所を確認することができる公的書類が必要となります。住所を海外に異動している場合には、免許証等の本人確認書類を提出することができません。なぜなら免許証記載の住所を海外の住所に変更することはできないからです。したがって、パスポートや居住証明書が本人確認書類となりえるのかは法務局に確認する必要があるでしょう。私が確認した管轄法務局ではパスポートは不可、在留証明書が必要とのことでした。

以上、ざっくりですが、問題となりそうな点について挙げてみました。

海外に居住している相続人が主体となって、相続手続きをするのはかなり難しいと思います。
弁護士や司法書士など専門家に依頼するのが一番とは思いますが、ご自身でできることはやってしまった方が費用は安く済みますのでぜひトライしてみてください。

もし専門家にお願いしたいという場合は、国際派の司法書士である当職にご依頼して頂ければ幸いです。