本記事の想定するケースはつぎのとおりです。
親と同居して親の面倒を最後までみていた長男が、
他の相続人に対して、
遺産を開示せずに、
「全ての遺産を長男が相続する。」
内容の遺産分割協議書への押印を求めたとします。
これに対して他の相続人は、
長男が親の面倒をみていたことへの感謝はあるため、
長男が遺産の大半を相続することに反対はしておりません。
しかし、
遺産がどれぐらいあるのかわからないまま
遺産分割協議書へ押印することに疑問をもっています。
家庭裁判所に持ち込むほどの争いにはしたくないが、
疑問をもったまま遺産分割協議書へ押印もしたくない。
そんなケースは非常に多いと思います。
「こっそり遺産を調べることはできないものだろうか?」と。
本ケースの実際のやりとりは次のようかもしれません。
長男が、
「親の介護で親の預貯金はほとんど使ったのでのこっていない。財産は不動産だけだ。」
「おまえは親の面倒もみずにほったらかしにしてきたんだから、つべこべいわずにこの遺産分割協議書に押印しろ。」
といってきたとします。なんと横暴な長男でしょうか・・・
「預貯金ないってほんまか?通帳見せてもらえんか?」
とつっこみたいところですが、つべこべいうと争いになりそうです。
実際、のこっていないといっている預貯金の残高はいくらなのでしょうか?
本記事では、遺産分割協議書の内容から
できるだけ簡単にかつすばやく、
遺産がどれぐらいあるのかできるだけ正確に読み解く方法をお教えします。
遺産分割協議書からは遺産の具体的な金額はわからない。
故人の遺産を相続するためには、
不動産であれ、
預貯金であれ、
株式であれ、
原則として遺産分割協議書が必要となってきます(遺言書がある場合を除きます。)。
遺産分割協議書で誰がどの遺産を取得するのか定めるわけですね。
遺産分割協議書がない場合には、
相続人全員で手続きを進めていく必要があり、
一人の相続人が勝手に遺産を取得できません。
(少額の預貯金は相続人の責任のもと相続人ひとりで相続手続きを行うことができる場合があります。)
それでは、遺産分割協議書には目的となる遺産を記載する必要があるので、遺産がどれぐらいあるのか正確にわかるのではないでしょうか?
答えは「ノー。」です。
遺産分割協議書には、
不動産、預貯金及び株式などを特定する情報は確かに記載していますが、
具体的な金額の記載は一切ありません。
例えば、次の遺産分割協議書を見てみましょう。
遺 産 分 割 協 議 書 -------省略ーーーーーーーーー 1、次の不動産※②は相続人 長男〇〇 が相続する。 所 在 茨木市〇〇〇一丁目 所 在 茨木市〇〇〇一丁目〇〇〇番地〇 2、次の預貯金※③は相続人 長男〇〇 が相続する。 〇〇銀行 高槻支店 〇〇銀行 吹田支店 3、次の財産は、相続人 長男〇〇 が相続する。 株式会社A証券〇〇支店に預託している被相続人名義の全資産 -------以下省略ーーーーーーーーー |
ご覧のとおり、
不動産の評価額はもちろんのこと、
預貯金の残高や、
上場株式などの金融資産の評価額の記載はどこにもありません。
これは極めて一般的な遺産分割協議書です。
つまり、
遺産分割協議書からは遺産を特定することはできるが、
金額については一切わからないのが通常です。
ここからが本記事の本題となります。
それでは、
遺産分割協議書に書かれている個々の遺産につき、
その金額がいくらなのか調べる方法について述べていきます。
不動産の価値を調べる方法
手っ取り早く調べる方法として
固定資産評価額証明書を取得する方法です。
遺産分割協議書には不動産を特定する情報が記載してありますので、
当該情報をもとに、管轄する市区町村役場に固定資産評価証明書を請求します。
相続人であれば、
相続人であることを証する戸籍を提示することによって、
相続人の一人から請求することができます。
固定資産税評価額は市場価格の7割といわれたり
実際取引されている価格から乖離していることも多いですが、
一つの参考にはなるでしょう。
もう少し詳しく調べたいという方は、
路線価を調べてみるのもよいでしょう。
国税庁のホームページから調べることができます。
正確に調べたい場合は、
不動産会社に査定してもらう方法もありますが、
この方法では簡単すばやく調べることは難しいでしょう。
預貯金の残高を調べる方法
遺産分割協議書には、銀行名及びその支店名が必ず記載されておりますので、
当該支店窓口で「残高証明書」を請求することができます。
相続人であれば、
相続人であることがわかる戸籍を提示することによって、
相続人の一人から請求することができます。
例えば、相続人が被相続人の子である場合は、
□ 被相続人の死亡の記載のある除籍謄本
□ 相続人の現在戸籍
□ 相続人の本人確認書類(免許証など)
が必要となります。
残高証明書は即日発行してくれる金融機関が多いですが、
1週間ほど時間を要する金融機関もあります。
ゆうちょ銀行については最寄りの支店で対応してくれます。
被相続人が亡くなる前に預貯金から多額の現金の引き出しが疑われる場合には、
過去の取引履歴を請求して調べることができます。
こちらについても相続人であることを証する戸籍を提示することによって
相続人の一人から請求する事が出来ます。
過去の取引履歴を確認することによって、
現金の引き出しだけではなく、
保険金の引き落とし、
積立金の引き落とし、
株の配当金の入金などから
新たな遺産が発覚することもあります。
ただし、銀行の取引履歴については即日発行してくれない金融機関が多く、
取り寄せる期間が長ければ長いほど時間を要します。
少なくとも2週間はみておくとよいでしょう。
上場株式などの金融資産の評価額を調べる方法
一般的に個人が、
上場株式などを購入するためには、
証券会社で口座を開設する必要があります。
口座を開設したら当該口座に入金して
株式や
投資信託などを購入する流れとなります。
したがって、
証券会社に残高証明書を請求することによって、
証券会社の口座にある現金も含め、
当該証券会社を介して購入した株式や投資信託など
すべての金融資産が開示されます。
株式や投資信託の評価額は日々変動しますので、
指定した日付の評価額で開示されることになります。
証券会社の残高証明書も預貯金と同じように
相続人であることを証する戸籍を提示することによって、
相続人の一人から請求することができます。
まとめ
比較的時間もかからず簡単にできる方法は次の通り。
①不動産については固定資産評価証明書を取得する。
②預貯金については残高証明書を取得する。
③証券会社についても残高証明書を取得する。
時間がかかってもしっかり遺産を調べたい方法は次の通り。
①不動産については、路線価を調べる。さらに詳しく調べたい場合は、不動産会社に査定を依頼する。
②預貯金について過去の取引履歴を取り寄せる。